「んんっ……」
 ぼんやりとした意識の中、ユウイチは目を覚ました。
「ここは……?」
 徐々に戻り出した意識の中、ユウイチは辺りを見回した。目の前に広がっている情景はアユの家だった。どうやら無事夢魔の世界から帰還出来たようだ。
「ユウイチ殿、気が付きましたか?」
 気が付いたユウイチに声を掛けて来たのは、キルヒアイスだった。
「キルヒアイスさん。他のみんなは?」
「マコトは大丈夫よ」
「サユリも大丈夫ですわ」
「同じく……」
 ユウイチの問い掛けに応えるマコト、サユリ、マイの三人。皆の安否が確認出来たことに、ユウイチはひとまず安堵した。
「アユは!?」
 他のみんなが無事帰還出来たのなら、アユも助かった筈。しかし、ユウイチの問い掛けにアユの返事はなかった。
「おい、アユ、アユ!」
 アユは心地良い顔で眠りに就いていた。もしかしてアユだけ助からなかったのか、そう思ったユウイチは必死な声でアユを呼び続けた。
「んっ……、この声、ユウイチ君……?」
「アユ! そうだ、俺だユウイチだ!」
「ユウイチ君……」
 ユウイチの呼び掛けに呼応するかの様に、アユはゆっくりと目を覚ました。
「アユ、アユ! 良かった、本当に良かった……」
 アユが目覚めるや否や、ユウイチはアユに抱き付いた。アユを優しく包む込むユウイチの目には、アユの目覚めを喜ぶユウイチの涙がうっすらと流れていた。
「ユウイチ君! 夢じゃないんだよね、本当にユウイチ君が帰って来たんだよね……」
「ああ、夢なんかじゃない! 俺は帰って来たんだ、お前に逢う為に!!」
「ユウイチ君、ユウイチ君!」
 確かなユウイチの温もりを感じ取ったアユは、堰を切ったかの様に泣き出した。ようやく大切な人と再会出来た。そう二人共、心の行くまで再会の涙を流すのだった。



SaGa−25「イゼルローン殺人事件」


「アユ様、ご無事で何よりでした」
「ジークさん。ありがとう、ユウイチ君達と一緒にボクを助けに来てくれたんだよね? 他のみんなもありがとう」
 目覚めたアユは、自分を助けに来てくれたみんなに感謝の言葉を労った。
「しかし、一体何の目的でアユを……? マコト、薬を渡した人はどんな感じだった。黒い服を着ている以外に何か特徴はなかったか?」
 黒い服の男は一体何故アユに夢魔の秘薬などを渡したのだろう。その男の具体的な特徴を探れば目的が掴めるかもしれない。そう思ったユウイチは、直接黒服の男から薬を受け取ったマコトに問い掛けた。
「うんっとね、着ていた黒い服は神王教団のだった」
「神王教団!? 神王教団がどうしてアユを……?」
 あの神王教団が何故アユを!? アユと神王教団にどのような関係があるか考察するものの、ユウイチには何ら接点を見出すことも出来なかった。
「それとね、その黒い服の人は、耳に赤サンゴのピアスをしていたわ」
「赤サンゴのピアスッ……!?」
 その言葉を聞いた時、マイが何かを閃いた様な反応を示した。
「ふぇ? マイ、どうかしたの?」
「ヒジリさんの工房から聖王の槍を盗んだ者も、赤サンゴのピアスをしていたと聞いた……」
「!?」
 マイの言葉に、周囲に緊張が走った。神王教団、赤サンゴのピアス、そして聖王遺物。途切れ途切れだった糸が、少しずつ一本の糸に収束され始めた。
「成程、大体の経緯は読めました。恐らくその男はこれを狙っていたのでしょう」
 そう言い、キルヒアイスは銀の手を皆の前に差し出した。
「これは、あの夢魔が言っていた聖王遺物! でもどうしてここに?」
 銀の手は夢の中で手に入れた物、それがどうして現実の世界に存在しているのだろうとユウイチは疑問を抱いた。
「銀の手は代々マリーンドルフ家に伝わっていたものです。誰も知らない家の奥底に隠され、その隠し場所は代々の当主しか知らないと言います。恐らく家の奥底に隠されていた銀の手を、アユ様が夢の中に呼び寄せたのでしょう」
「アユ、お前は隠し場所を知っていたのか?」
「うん、お父さんが死ぬ前に教えてくれた」
「恐らく赤サンゴのピアスの男はアユ様が口を割らないと思い、夢魔の力を使いアユ様から銀の手の隠し場所を聞き取ろうとしたのでしょう」
「多分、私からマスカレイドを奪った者も、その男の手の者……。目的は分からないけど、神王教団は聖王遺物を集めている……」
 そう言うと、マイは思い立った様にアユの家から出ようとした。
「マイ、何処に行くの?」
「赤サンゴのピアスの男を問い詰める……。奴はここの支部にいる筈……」
「お止め下さい、マイ様。貴方一人で神王教団に立ち向かうのは無謀です。今回の事も含めて、ラインハルト様が動いて下さることでしょう。ですからマイ様は剣をお納め下さい」
「ジーク、分かった……」
 キルヒアイスの説得に応じ、マイは踏み止まった。
「マイ、この件はお兄様にお任せして、サユリ達は新無憂宮ノイエ・サンスーシーに戻りましょう」
「サユリ……」
「キルヒアイスさん、貴方もサユリ様達と共に戻って下さい。これからは俺がアユの面倒をしっかりと見ますから」
「ユウイチ殿。分かりました」
 ユウイチ殿にならアユ様をお任せ出来ると思ったキルヒアイスは、二つ返事でユウイチの考えに従った。
 こうして、マイ、サユリ、そしてキルヒアイスは新無憂宮ノイエ・サンスーシーに戻ることとなった。



「アユ様、本当に私が預かっても宜しいのですか?」
「うん。それが今一番必要なのはジークさんだと思うから。それでラインハルト様の役に立って下さい」
 ローエングラムへと帰還するキルヒアイスに、アユはマリーンドルフの家宝ともいえる銀の手を預けることにした。キルヒアイスは遠慮を見せたが、アユはキルヒアイスに必要なものだからと、自分の意思を貫き通した。
「分かりました。そこまで仰られるなら、謹んでお預かり致します」
 アユの素直な想いを受け止め、その証拠を見せるかのようにキルヒアイスは、銀の手を負傷している利き腕に装備した。
「ではユウイチ殿。アユ様をお任せ致します」
「はい。キルヒアイスさんもお元気で」
 別れの挨拶をし、マイ、サユリ、キルヒアイスの3人は新無憂宮ノイエ・サンスーシーへと帰還して行った。
「さてと。他の三人は帰ったけど、お前はどうするんだ?」
 三人を見送った後、ユウイチはマコトに話題を振った。
「う〜っと、ええ〜っと、あうーっ……」
 ユウイチの問い掛けにマコトは答えられず、ただまごまごしているだけだった。
「アユも元気になったんだし、お前も家に帰った方がいいんじゃないか? 両親も心配しているだろうし」
「ボクもお家に帰った方がいいと思うよ。帰れる家があって、自分の帰りを待ってくれている家族がいる。それはすごく幸せなことだと思うから……」
「アユさん……」
 アユの言葉がマコトには強く響いた。アユには両親は既になく、自分が帰るべき家も他人の手に渡ったままだ。そんなアユに比べたら、自分は恵まれている。帰る家も、帰りを待つ家族もいるのだから。
「分かったわ。あたし、家に戻るわ」
 帰る家も、帰りを待つ家族もいるのに家出している自分は、単に我侭なだけかもしれない。そう思ったマコトは、家に帰る決心をしたのだった。
「そうか。一人で帰るのが大変そうだったら、俺も付き合うが?」
「心配しなくても一人で帰れるわよ! じゃあね、二人とも。気が向いたらまた遊びに来るわ」
「ああ。またなマコト」
「バイバイ、マコトちゃん。また一緒に遊ぼうね」
 ユウイチとアユに見送られ、マコトは家のあるリブロフへと帰って行った。
「さてと。ユウイチ君、ボク達もどっかに行こうか?」
「アユ、身体は大丈夫なのか?」
「うん。何だか夢魔と一緒に病気も吹っ飛んだみたいなんだよ」
「そうか。じゃあ、とりあえずウィルミントンにでも行くとするか?」
「ウィルミントン?」
 ユウイチの言った言葉にアユはきょとんとした。ウィルミントンは商業都市で特にこれといった観光名所はない筈。どうしてそんな所にユウイチ君は行こうって言ったんだろと、アユは疑問に思った。
「ネオ・マリーンドルフ商会の会長の体調が戻ったんだ。まずは、コーネフ会長に挨拶に行くなくっちゃな」
「会長って、誰のこと?」
「あのなぁ、お前以外にいるか……?」
 アユが前会長であるフランツの後継者なら、自動的にネオ・マリーンドルフ商会の会長となる。しかし当のアユにはそんな自覚がなかったようで、ユウイチは飽きれるばかりだった。
「ちょっと待ってよ。会長ってボクにはそんなことできないよ!」
「心配するな。俺が会長補佐としてお前を全力で支えるから」
「ユウイチ君……」
「挨拶を終えたら、二人でグレートアーチにでも遊びに行こうぜ」
 グレートアーチとは、南方に位置する常夏の地である。そこは美しい海岸と熱帯樹林が広がる世界有数の観光地となっている。今までアユはずっと狭い家の中で病と戦っていたのだ。元気になって動けるなら、めいいっぱいアユの羽を伸ばさせてあげたい。それがユウイチのアユに対する素直な気持ちだった。
「けど、遊ぶ前にやることはやっとかなくっちゃな」
「そうだね。じゃあ、早くウィルミントンに行こ!」
「ああ」



「ふう、ようやく着いたな」
 一方その頃、ユキトとユリアンはイゼルローンに到着していた。フェーザンのやや南西、西の大海の海岸部に位置する街、イゼルローン。この街は嘗て聖王が四魔貴族の一人であるフォルネウスと戦う際用いたと伝わる、イゼルローン要塞の上に築かれた街である。
「さて、ユリアン。イゼルローンに着いたのがいいが、これからどうするつもりだ?」
「そうですね。街の市長ならイゼルローン要塞の詳細を知っていると思うので、まずは市長の家をお伺いしようと思います」
「そうか」
 道行く街の人に話を聞きながら、ユキト達は市長の家を目指した。
「すみませ〜ん。市長はいらっしゃるでしょうか〜」
 市長の家に着くと、ユリアンは大きな声で市長の所在を訊ねた。
「あら、いらっしゃい」
 ユリアンが呼び掛けると、奥から二十代後半の女性が姿を現した。
「あの、すみません。市長はいらっしゃるでしょうか?」
「主人ならいるわよ。居間に案内するからそこで待っててちょうだい」
 会話から察するに、この女性は市長の妻なのだろう。市長の妻に居間へと案内され、そこで暫く市長が現れるのを待つこととなった。
「待たせたな。市長のアレックス=キャゼルヌだ」
 暫くすると、妻に呼ばれた市長が姿を現した。市長は名をキャゼルヌといい、風格からして三十代半ばの男性だった。
「初めまして。僕はユリアンです」
「俺はユキトだ」
「で、私に何の用だね?」
「はい。実はイゼルローン要塞についてお聞きしたいのですが?」
「要塞について? 目的は何だ?」
 要塞の名を聞くなりキャゼルヌは、怪訝そうな顔でユリアンに詳細を訊ねた。
「それは、フォルネウスを倒す為です」
「成程。君は聖王伝説に惹かれた冒険者という訳か。悪いがそんな夢想家に話すことは何もない。とっとと帰りたまえ」
 そうキャゼルヌは毒舌を交え、ユリアン達を早々に帰らせようとした。
「ちょっと待って下さい。アビスの力は日に日に強くなっているんですよ。このままですと、フォルネウスがアビスゲートの奥から攻めてくるかもしれない。ですからその前に要塞を起動させて……」
「フォルネウスが攻めて来るという確固たる証拠はあるのかね? その証拠がなくては君達の話を信じる訳にはいかんよ」
 必死に詳細を聞き出そうとするユリアンだったが、キャゼルヌは一向に語り出す気配がない。これ以上説得しても態度を変えないだろうと思ったユリアンは、渋々市長の家を後にした。



「ユリアン、これからどうするんだ?」
 市長の家を後にしたはいいがこれからどうするのだと、ユキトはユリアンに訊ねた。
「そうですね。日を改めてまた市長の家を伺ってみます」
「そうか。俺は明日にはモウゼスに発つ。とりあえす今日は宿を探すとしよう」
「そうですね」
 辺りは既に夕暮れに差し掛かっており、二人は宿を探して街を歩いた。
「ねえ、あなた。今日の夕ご飯何にする?」
「そうだな。君の作るものなら何でもいいよ」
「まっ、あなたたったら」
 そんな二人の横を、若夫婦らしき男女が通り過ぎて行った。
「……」
 その若夫婦に、ユキトは暫し羨望の眼差しを向けた。
「どうかしたんです、ユキトさん?」
「いや、仲が良さそうなな夫婦だと思ってな」
「そうですね」
「なあユリアン。もしも、俺とミスズが普通の恋人同士だったら、あんな風になれただろうか?」
 若夫婦らしき男女に、ユキトは自分とミスズの姿を投影した。もし、自分達が旅の男と国王の娘という関係ではなかったなら、あの夫婦のような関係になれたんだろうか? 一緒に夕食を買いに行ったり、他愛ない会話で盛り上がったり、そんな関係になれたんだろうかと。
「そうですね。なれたかもしれませんね。お二人は本当に仲が良かったですから」
「ああ、そうだな……」
 もし、ミスズと生きて再び巡り逢えたなら、その時はミスズを王女だった時よりも幸せにしてやろうとユキトは心に誓った。そして、そんなミスズと極平凡な家庭を築き上げる。それが自分の最も望むべき夢だと。



「ん、んんっ……」
 その晩、ユキト等が街ですれ違った夫婦は、ベッドの上で熱い愛情をぶつけ合っていた。
「ごめん、ちょっとトイレに行って来る……」
「何よ、これからって時に」
 夫は申し訳なさそうに、家の外にあるトイレへと向かって行った。
 ザシュッ、ベキグシャ!
 その直後、家の外に聞き苦しい音が響いた。しかし猫か何かが騒いでいるのだと思った妻は特に気にせず、夫が戻って来るのを待ち続けた。
 ピチャリ、ピチャリ……ドサッ!
 暫くすると、水を滴らせながら歩く足音が聞こえ、そしてベッドの上に重い塊が投げ付けられた。
「もう、何よ……。えっ、これ、血……!? キャア〜〜」
 一体なんだろうと、投げ付けられた塊に手を差し伸べると、べっとりとした血が手に絡みついた。驚いて塊の方に目を向けると、そこには五体を切り刻まれ既に息のない血塗れの夫の姿があった……。



「何だか、やたら騒がしいな……」
 翌朝、宿を発ったユキトとユリアンは、異様な喧騒に包まれている街の空気に違和感を覚えた。
「何だか人だかりができてますよ。行って見ます?」
「ああ」
 街中を闊歩していると、目の前に人だかりができているのが確認出来た。一体何を騒いでいるのだろうと、ユキトとユリアンは人だかりができている先に向かった。
「うっ、これは……」
 人だかりができていたのは、何の変哲もない一軒家だった。人だかりは家の中までできていて、その人だかりを掻き分けて家の奥へと進む。そしてその先には無残な姿と化した男女の屍が散乱していた。
「酷いですね、これは……」
 死体は強烈な力で腕や足を切り裂かれ、辺りにはバラバラになった肉の塊と大量の血痕が散乱していた。ここで目の向けられないような壮絶なる虐殺が行われたのだろう。そう血の気の引く思いでユリアンは殺人現場に目を向けた。
「ああ。しかし……」
 殺された男女の顔に、ユキトは見覚えがあった。それは昨日街で自分の脇を通り過ぎた若夫婦の顔だった。
「この傷、到底人間の付けられるものじゃないな。恐らくモンスターの仕業だろう」
「何ですって!?」
「しかも、家の中に入っての犯行だ。人間並みに知能の高い魔物と呼ばれる奴等が殺した可能性が高い」
「魔物……。でもどうして……」
 確かにユキトの言うように魔物の仕業だとユリアンも思った。しかし、犯行の動機が説明出来ない。こんな一般の夫婦を殺めるのだから無差別殺人の可能性は高い。だが、何故魔物がそんな無差別殺人を行うかの理由がユリアンには検討も付かなかった。
「さて、もう暫く留まるとするか……」
「ユキトさん!」
「犯人が人間であれ魔物であれ、幸福な生活を営んでいた夫婦の幸せを奪う権利はないだろう? 少なくとも俺は犯人を許してはおけない」
 普段の自分だったらそんな感情は抱かなかっただろうと、ユキトは思った。しかし、一瞬とはいえこの夫婦に自分はミスズと自分を重ね合わせた。そのせいか、この夫婦の命を奪った奴を許してはおけないという感情が、自然とユキトは湧き上がって来たのだった。



 その晩、ユキトとユリアンは二人で夜の街を出歩いていた。昨日の殺人事件は夜起きたという。ならば犯人等は夜に出歩いている自分達を狙うのではないかと、自らを囮として犯人を誘き寄せる形で街を歩いていた。
 ピチャリ、ピチャリ……
 そんな二人の前に、水を滴らせながら歩く足音が聞こえて来た。
「ユキトさん……」
「ああ、この足音は人間のものじゃない。ユリアン、戦う準備は整っているか?」
「ええ」
「グアオ〜〜!」
 刹那、二人に目掛けて魔物の鋭い槍が襲い掛かった!
 ガキィ!
 予め身構えていたユキトは、その一撃を受け止めた。
「ホウ、受ケ止トメタカ。人間ニシテハナカナカヤルナ……」
「なっ、こいつは……」
 対峙した魔物は手に槍を持ち、人間の言葉を話す。それだけで知能の高い魔物だとユキトは一瞬で理解した。そして魔物の姿は魚人とも言える魔物だった。
「ユキトさん!」
 自分の名を呼ぶユリアンの方に目線を向けると、周囲を同じ姿の魔物が囲んでいた。
「成程、取り囲まれたって訳か……」
「イゼルローンノコントロールルームノ場所ヲ吐ケ! ソウスレバ命ダケハ助ケテヤル」
「イゼルローンのコントロールルーム? 生憎だがそんなのは知らないね」
「ソウカ。ナラバ、死ネ!」
 ユキト等がイゼルローンのコントロールルームを知らないと分かると、魔物共は一斉に襲い掛かって来た。
「風よ、我の元に集い全てを吹き飛ばす竜巻となれ! トルネード!!」
 襲い掛かる魔物の前に、ユキトは蒼龍術トルネードを唱えた。
 ゴアアアアア〜〜!!
 巻き起こる巨大な竜巻に魔物共は巻き込まれ、空中高く放り投げられた。
 ドシャ、グチャ!
 空中へと放り投げられ、体勢を立て直せなかった魔物共は地面に叩きつけられ、多くの魔物は息を根を止めた。辛うじて体勢を立て直せた魔物も致命傷を負い、戦闘力の殆どを奪われたようだった。
「グウッ、ヤルナッ、人間メ……」
「さあ、教えてもらおうか。何故イゼルローンのコントロールルームの場所を聞き出そうとする!?」
「貴様等ニ話スコトナドナイ! グオオオ〜〜!!」
 最後の力を振り絞るかの様に、生き残った魔物達は二人に襲い掛かった。
「やあっ!」
 迫り来る魔物に、ユリアンは氷の剣を振り翳した。勢い良く振り翳された氷の剣の切っ先からは冷気が生じ、襲い掛かって来た魔物はその冷気に氷漬けにされた。
「ナッ、ソノ剣ハ氷ノ剣!? アウナス様スラモ凍ラセルトイウ、アノ……」
 そう言い残し、魔物は息を引き取った。
「終わったな」
「ええ。けど、魔物が最期に言い残した言葉が気になります」
「ああ」
 魔物が最期に言い残した言葉、それは四魔貴族の一人であるアウナスの名だった。
「ということは、この魔物はアウナスの手先なのでしょうか?」
「いや、風貌からしてアウナスの手先ではないな。恐らくこいつらはフォルネウスの手の者だろう。フォルネウスの手下ならば、他の四魔貴族の名を知っていても不思議じゃない」
 ユキトの推理にユリアンも頷けるものがあった。確かに倒した魔物の風貌は水棲系モンスターの派生系の様な姿だった。そして何よりイゼルローンのコントロールルームの場所を探していること。イゼルローン要塞は嘗てフォルネウスをアビスゲートの奥へと追いやった要塞。復活したフォルネウスがその要塞を恐れるのは自然な話だ。ならば、その要塞を自分達の手で抑えておこうと画策するのも不思議ではない。
「どうします、こいつ等の死体?」
 フォルネウスの手下を倒したはいいが、その亡骸をどうしたら良いか。自分一人ではいい考えが浮かびそうにないと思い、ユリアンはユキトに相談した。
「そうだな。とりあえずこいつ等の死体を市長の所に運んでおくか」
「市長の所に!?」
 ユキトの余りに突発な答えに、ユリアンは思わず驚いた。
「市長はフォルネウスが攻めて来るという確固たる証拠が欲しいんだろ? ならばこいつ等の死体を証拠として持っていけばいい」
「でもこの数を運ぶのは骨が折れますよ? 市長をここに呼び寄せればいんじゃないです?」
「それもそうだな。俺はここで万一に備えて死体を監視している。ユリアン、お前が市長を呼んで来い」
「分かりました」
 ユキトの指示を受け、ユリアンは市長の家へ駆け足で向かって行った。
(仇は取ったぜ……)
 魔物の亡骸に目をやりながら、ユキトはそう心で呟いた。街で偶然通り過ぎただけの名も知らぬ夫婦。ただ、それだけの関係の者だが、その者達の仇を取ることが叶った。
 せめてヴァルハラでは生前と変わらぬ幸福な生活を送っていって欲しい。そうユキトは心に強く願ったのだった。


…To Be Continued


※後書き

 何とか一ヶ月ちょっとで最新話を執筆することが出来ました。当初は某フラッシュを作成している間に完成させようと思っていたのですが、何だかんだ言ってフラッシュ作成後になってしまいましたね。
 さて、今回バンガードの市長役でキャゼルヌさんが登場した訳ですが、イゼルローンの事務方のイメージで市長をやらせました。これでヤン提督周辺の主要キャラは大体出て来ましたね。後はまだ名前だけしか出て来ていないアッテンボローという所でしょうか。
 今回は話的にはあんまり進展がなかったですが、今回からようやくあゆがパーティに加わります。それと今回進展がなかった代わりというわけではないですが、そろそろ四魔貴族戦を描きたいと思っているので、楽しみにしていて下さい。

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